総合小売業者の収益は急速な景気悪化で一段と低下《スタンダード&プアーズの業界展望》(1)
多くの小売業者の販売不振が続いている。経済産業省の商業販売統計によると、小売業の商業販売額の落ち込みは下落率(前年比)の最も大きかった2009年2月以降、改善しているものの、依然、厳しい状態である。
http://www.toyokeizai.net/business/industrial/detail/AC/4586bc64e0c4b582de6f91585dad8282/
深刻な消費環境を反映して、スタンダード&プアーズは、ファーストリテイリング(A/安定的/--)を除き、総合小売り(GMS)大手3社(セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ユニー)のアウトルックを「ネガティブ」としている。直近では、2009年2月3日に、イオンのアウトルックを「ネガティブ」に下方修正した。ここ数年の買収や事業投資の収益寄与が限定的なうえ、新規出店による先行投資が続いていることに加え、国内外の消費環境の急激な悪化を受けて収益力が低下しているため、早期に収益・財務基盤が改善する見通しが遠のいたと判断したことに基づく。
セブン&アイ・ホールディングス(AA-/ネガティブ/--)やイオン(A-/ネガティブ/--)など大手GMSでは、消費不振を打開するために、今年に入り相次いでプライベート・ブランド(PB)商品などの価格を引き下げている。価格引き下げに当たっては、各社とも粗利益率の改善を図ったうえで商品化しているとみられるが、集客力を向上させて価格引き下げ前を上回る販売量を確保できなければ、収益は減少し、人件費などの固定費負担をカバーできない。スタンダード&プアーズは、各社が価格引き下げ後も一定の営業利益と収益性を確保できるか注視しているが、最近の消費不況を考えると、低価格化によって収益基盤が一段と毀損する可能性は捨てきれないと考えている。また、各社が取り組んでいる業態転換、閉店、コスト削減といった構造改革は、比較的小規模だったり、取引先との交渉が必要なものも多いため、収益を短期的に大幅に改善させるとは考えにくい。
その他の主要小売業態についても、程度の差はあれ、先行きの事業環境の厳しさは共通している。唯一好調だったコンビニエンスストアは、タスポ特需に支えられた販売額増加の反動を懸念している。セブン-イレブン・ジャパン(AA-/ネガティブ/--)をはじめ、各社も低価格化を余儀なくされ、収益への影響が懸念されるほか、ローソン(格付けなし)によるam/pm買収が破談となり、業界再編によるオーバーストア状態の解消が一向に進まないことも、ネガティブな要因である。
最も売り上げが減少している百貨店各社の厳しい収益環境は当面変わらないだろう。そのなかで、セブン&アイ傘下のそごう、西武百貨店は、不採算店の売却・閉店を打ち出したことで、ある一定程度の収益改善があると考えている。閉店後に他業態のグループ店が出店することも考えられるため、グループ全体での商圏を維持するのも、ある程度可能だろう。アパレル・衣料系専門店については、イオン傘下の米タルボットが消費不振の直撃を受けてリストラを推進中であり、またユニー傘下の衣料系専門店も苦戦が続いている。しかし、ファーストリテイリングのように、優れた商品開発・生産・在庫コントロールによって、大幅に前年を上回る売上高を確保している企業もある。今の勢いからすると、競争力格差がさらに広がる可能性が高い。
このように小売各社は厳しい収益環境に直面しているが、そのなかでも、海外展開と金融事業で実績をあげている大手小売業は、相対的に収益の安定度が高いとスタンダード&プアーズは考えている。少子高齢化と過当競争で縮小傾向が続く国内小売市場よりも、所得水準の向上により消費が増加しているアジア地域などでの成功が、各社の収益力を大きく左右する可能性が高い。イオンの中国・アジアのショッピングセンター運営事業、セブン&アイの米国セブン-イレブン、ファーストリテイリングのアジアを中心とする海外ユニクロ事業などの成功例は、日本で培った品揃えやPBも含む商品開発力(商品政策)、商品調達力、店舗運営ノウハウなどに支えられたものである。
また金融事業も、今のところ、過度な信用リスクや市場リスクにさらされる事業モデルになっていないため、消費の不振が続いたとしても、安定的な手数料収入をもたらす収益源とスタンダード&プアーズは認識している。小売業者が手がけるクレジットカード事業は、キャッシング債権に関して過払い利息返還に関する費用負担が発生したものの、その影響は消費者金融専業者などに比べて軽微だった。カードの利便性を向上させて、優良顧客を獲得し続け、取扱高の増加につなげられるかが、収益拡大のカギである。電子マネーでは、他社との提携で、取扱店舗数が拡大しているため、手数料収入の拡大が期待できるビジネスである。
一方、デベロッパーや不動産賃貸事業も小売各社への収益に貢献しているものの、景気悪化・消費不振を受けてテナント企業から賃料の引き下げを要求されるケースが今後増え、収益環境はやや厳しいと考えている。
今後1-2年、主要小売業態の既存店売上高の減少が続き、各社の収益性指標が悪化したり、積極的な株主還元策や事業・設備投資の継続的な実施で財務の保守性・健全性が大きく損なわれると判断した場合は、格下げを検討する。なかでもイオンの信用力向上に関しては、GMS・専門店事業の立て直しと出店抑制などによりフリーキャッシュフローを確保し、有利子負債の削減を進め、財務負担を緩和することが必要であるとスタンダード&プアーズは考えている。
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